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カスタマーサクセスのメリット・デメリット、成功までの道のりをご紹介

カスタマーサクセスの3つのメリット

近年、カスタマーサクセスという考え方に注目が集まっていますが、カスタマーサクセスとは顧客の成功体験を重視するマーケティング上の概念を指します。商品やサービスが乱立し顧客の選択肢が増えた現在、企業が利益を上げていくためには新規顧客を開拓していくよりも、如何に既存顧客に自社商品やサービスを使い続けてもらうのかが重要となります。特に、サブスクリプション型のビジネスモデルでは解約率を抑えて継続率を高めることが重要となりますが、そのために必要になるのがカスタマーサクセスという考え方です。

カスタマーサクセスでは、従来のビジネスモデルのように自社の商品やサービスを選んでもらうことがゴールとするのではなく、その先の顧客の成功体験を重視することで顧客との長期的な関係を維持していくことが目的となります。例えば、サブスクリプション型のビジネスモデルであれば、サービスの利用方法や導入サポート、顧客の課題解決につながる活用方法の提案などがカスタマーサクセスの代表的な内容となります。ただし、顧客にとっての成功体験は個々によって異なるため、カスタマーサクセスに取り組む際は状況に応じて柔軟に対応を変えていくことが重要です。

なお、カスタマーサクセスとよく似た概念にカスタマーサポートがありますが、これらは顧客へのアプローチ方法に大きな違いがあります。カスタマーサクセスは顧客の成功体験をサポートするための先回りで行動していく能動的なアプローチであるのに対し、カスタマーサクセスは顧客の要望に対応する形の受動的なアプローチが特徴です。また、顧客と関わる期間にも違いがあり、カスタマーサクセスが中長期的に顧客とか関わっていくのに対して、カスタマーサポートはあくまで顧客からの問い合わせに対応するものなので顧客と関わる期間は短期的です。加えて、カスタマーサクセスは顧客を成功体験へと導いて利益を最大化させる役割を担いますが、カスタマーサポートは利益を上げるというよりかはコストを最小化させる効率性が求められます。しばしば、カスタマーサクセスはカスタマーサポートの延長線にあるものだと勘違いしている方もいますが、これらには活動内容や役割に明確な違いがあります。そのため、組織としてもカスタマーサクセス部とカスタマーサポート部を別々に設置することが大切です。

1.解約率の抑制が図れる

以上がカスタマーサクセスの概要となりますが、企業がカスタマーサクセスに取り組むことには大きく3つのメリットがあります。一つ目のメリットは解約率の抑制が図れることです。顧客がサービスを解約するときは、基本的に選んだサービスを使ってみたものの思ったような効果が得られなかったと感じたときです。簡単に言えば、サービスを利用して失敗したと感じた場合に解約に至りますが、解約率は企業にとって売り上げを左右する重要な要素となります。商品やサービスが乱立している現在の市場において新規顧客を獲得することはどんどん難しくなっているため、いかに既存顧客に継続して利用し続けてもらうかが重要となりますが、カスタマーサクセスでは顧客の失敗を先回りで防いで成功体験へと導きます。施策が上手く実行されれば、顧客にネガティブな感情が芽生えることがなくなるため解約率の低下につなげることが可能です。また、カスタマーサクセスに取り組んで顧客とのコミュニケーションを継続的に行うと、解約の前兆にも気が付くことができる可能性もあり、実際に解約につながる前に対処することも可能となります。

2.顧客単価の向上が期待できる

二つ目のメリットは顧客単価の向上が期待できることです。カスタマーサクセスでは、顧客の成功体験に必要だと思われる商品やサービスの利用を積極的に促していきます。場合によっては、ユーザーニーズに応えるために新たな商品やサービスを開発することもあります。つまり、カスタマーサクセスではクロスセルやアップセルを効果的に実施できるため、顧客単価の向上が図れるということです。なお、クロスセルとは顧客が利用している商品やサービスに関連する商品・サービスを販売すること、アップセルとは顧客が現在利用している商品・サービスよりも上位の商品・サービスを販売することを指します。クロスセルやアップセルを実施すると、顧客が購入する商品やサービスは増えていくため、既存顧客の客単価が上昇して継続的な利益が生み出されていきます。また、顧客単価が増加すればLTVも自ずと高めることが可能です。LTVとは顧客生涯価値のことで、一定期間の内に顧客が自社の商品やサービスに使った合計金額を表しています。LTVの向上は企業の業績向上に直結する重要な要素となりますが、カスタマーサクセスに取り組むとLTVの向上も図れます。

3.顧客ロイヤルティの向上が図れる

三つ目のメリットは顧客ロイヤルティの向上が図れることです。顧客ロイヤルティとは、顧客がブランド・商品・サービス・企業などに対して感じる愛着や信頼のことを指します。商品やサービス、ブランドなどに愛着や信頼を持っている顧客ほど競合他社への乗り換えが起こりにくいため、顧客ロイヤルティを高めることで継続率やリピート率を向上させることが可能です。カスタマーサクセスに取り組むことで顧客に成功体験を提供することができれば顧客満足度が向上しますが、顧客満足度を高めることができれば顧客ロイヤルティの向上にもつながります。顧客満足度と顧客ロイヤルティは必ずしも比例はしませんが、多くのケースで顧客満足度が高まれば顧客ロイヤリティも向上します。また、顧客ロイヤリティを高めることで、新規顧客開拓にもつながるケースも少なくありません。顧客ロイヤリティを高めると、他のユーザーに商品やサービスを薦めてくれる可能性が高くなります。顧客ロイヤリティが高まった顧客は、新たなユーザー獲得につながる広告塔にもなってくれるため、カスタマーサクセスに取り組むと新規顧客獲得という副次的な効果も得ることが可能です。一般的に新規の顧客を獲得するには多くのコストを要しますが、既存顧客が広告塔になってくれれば莫大な費用をかけずとも新規顧客が増えていく仕組みを構築することができます。

 

カスタマーサクセスのデメリット

上記の通り、カスタマーサクセスに取り組むことは企業に様々なメリットをもたらすため、特にサブスクリプション型のビジネスモデルにおいて注目度が高まっています。一方で、カスタマーサクセスにもデメリットがいくつかあるので注意が必要です。

1.部署や部門の設立に時間がかかる

カスタマーサクセスのデメリットとしてまず挙げられるのは、部署や部門の設立に時間がかかることです。新たにカスタマーサクセスに取り組む場合、カスタマーサクセスの施策を実際に実行する部門、CHS(カスタマーヘルススコア)などを定期的に測定する部門、VOC収集によって顧客ニーズを把握する部門などを立ち上げる必要があります。

CHSとは、顧客のサービス利用状況を健康状態に例えた指標で、利用状況が健康であれば寿命が延びるという考えのもとで用いられています。顧客がサービスを利用し続けてくれるのかを予測するための指標で、主にCHSはログイン数・クリック数・利用時間・メッセージ送信数といった数値でトータル的に判断しますが、CHSが低い顧客は離脱率が高い状態です。そのため、カスタマーサクセスではCHSが低い顧客から優先的にアプローチしていくことが重要となりますが、CHSを把握するためには、CRMなどのツールを活用したり顧客ニーズをフィードバックする仕組みを構築したりしなければなりません。

また、VOCとはVoice of Customerの略で、顧客の声を意味しています。カスタマーサクセスでは顧客の声を収集してサービスに反映させていくことが重要となるため、定期的にVOCの収集に取り組む部隊も必要です。なお、VOCはアンケートを実施したり、コールセンターへの問い合わせやクレームの内容を活用したり、SNSを活用した市場調査を行ったりすることが収集することができます。このように、カスタマーサクセスに取り組む際は様々な部門が必要になるので、その設立には多くの時間がかかるのが一般的です。

2.時間がかかるだけでなくコストがかかる

時間がかかるだけでなくコストがかかるのもデメリットのひとつです。顧客にとっての成功体験は個々の状況にとって異なるため、カスタマーサポートの内容は顧客ごとに変えていかなければなりません。これがカスタマーサクセスのコストを引き上げる大きな要因となりますが、カスタマーサクセスの成功には専門的な知識やスキルを持った人材も必要です。カスタマーサクセスに取り組む人材には、顧客を理解してマーケティング戦略を立案するスキルが求められます。一方で、カスタマーサクセスに取り組む企業が増えた現在、専門的な知識やスキルを持った人材は引く手あまたの状況となっているため、このような人材を確保するには一定の費用が必要です。

3.効果測定に時間がかかる

効果測定に時間がかかるというデメリットもあります。時間とコストをかけてカスタマーサクセスに取り組み始めたとしても、その効果が測定できるようになるまでは一定の期間を要します。カスタマーサクセスは、長期的な視点で見れば利益につながる施策ですが、長期的な視点で見るほどの余裕がない企業にとっては取り組みにくい施策でもあるので、この点については十分に理解しておくことが大切です。

なお、カスタマーサクセスに取り組む際に設定する主なKPIとしては、解約率(チャーンレート)・LTV(顧客生涯価値)・NPS(ネット・プロモータースコア)などが挙げられます。KPIとはKey Performance Indicatorの略で、日本語では重要業績評価指標と訳されます。目標に対して現状の達成度合いを図るための指標で、設定した上で定期的に計測していくことで、どのプロセスで問題が起こっているのかを把握できるとともに、問題解決のための施策立案につなげることも可能です。

カスタマーサクセスを実施する際もKPIを設定しておくことが重要となりますが、カスタマーサクセスのKPIで最も一般的なのが解約率です。解約率はサブスクリプション型のビジネスモデルであれば、一定期間内の顧客の解約数を稼働契約数で割ることで算出できます。解約率が低ければ、顧客に成功体験を提供できていると判断することができます。また、サブスクリプション型のビジネスモデルでない場合は、リピート率(継続率)を解約率の代わりに使うのが一般的です。

LTVはLife Time Valueの略で、ある顧客が生涯にわたって自社にもたらした利益のことを指します。LTVの計算はビジネスモデルや提供するサービスタイプによって変わりますが、基本的には「顧客の平均購入単価×平均購入回数」で算出できます。また、ECといったリピート購入されるビジネスの場合は「顧客の平均購入単価×平均購入頻度×平均継続期間」で算出するのが一般的ですが、「顧客の平均購入単価×平均購入頻度×平均継続期間―(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)」という計算式を用いると顧客の獲得や維持に要するコストも考慮することが可能です。その他にも、年間取引額から算出する「顧客の年間取引額×収益率×継続年数」、解約率から算出する「平均顧客単価×100÷解約率」といった計算方法もあります。サブスクリプション型のビジネスモデルであれば、解約率から算出する計算式を用いるのが一般的です。

NPSはNet Promoter Scoreの略で、顧客ロイヤリティを図る指標として使われます。Webサービスを利用していて、「このサービスを友人や同僚に薦める可能性はどれくらいありますか」というアンケートを見たことがある方も多いかと思いますが、NPSを算出する際はこのようなアンケートをユーザーに0~10段階で回答してもらうことで顧客ロイヤリティを可視化します。そして、回答した顧客を、0~6と回答した批判者・7~8と回答した中立者・9~10と回答した推奨者の3つのカテゴリーに分類し、最後に「推奨者の割合(%)―批判者の割合(%)」を計算することでNPSは算出することが可能です。例えば、回答者に対する推奨者の割合が20%で、批判者の割合が30%だった場合のNPSは「20%-30%」で-10ポイントとなります。また、上記した3種類の指標以外にも、オンボーディング完了率、クロスセル・アップセル率などの指標もカスタマーサクセスのKPIとして使われるケースもあります。

 

カスタマーサクセスの成功事例

カスタマーサクセスは全ての企業にとって重要な概念となりますが、ここではカスタマーサクセスに取り組んで成功した事例を五つご紹介していきます。

1.Sansan株式会社

一つ目の成功事例はSansan株式会社です。Sansan株式会社は、法人向けの名刺管理ツール「Sansan」を提供している企業で、いち早くカスタマーサクセスに取り組んで成功を収めた企業として知られています。Sansan株式会社のカスタマーサクセスの特徴は、オンボーディング支援に重点を置いていることです。オンボーディングとは、顧客がサービスを利用し始めてから、そのサービスを理解して定着するまでの期間を指します。

Sansan株式会社は、顧客にサービスのメリットを感じてもらうには、まずは使ってもらうことが重要というコンセプトを掲げ、音ボーディング支援に特化した部門を設立しました。その上で、顧客の成功パターンを分類した上で成功には何が必要なのかを提案する、データを活用したコミュニケーションを推奨する、顧客同士で名刺のデータ化に関する議論を行ってもらうユーザー会を開催するといった施策に取り組みました。加えて、カスタマーサクセス部門・マーケティング部門・リニューアルセールス部門の3部門が連携することで、Sansanは解約率が0.60%と、SaaS業界ではトップクラスの解約率の低さを達成しています。

2.ラクサス・テクノロジー株式会社

二つ目の成功事例はラクサス・テクノロジー株式会社です。ラクサス・テクノロジー株式会社は、約4万アイテムのハイブランドバッグを月額6,800円で使い放題できるサブスクリプション型のレンタルサービス「ラクサス」を提供している企業です。ラクサス・テクノロジー株式会社では、顧客フェーズを導入期・定着期・成熟期の3フェースに分類した上で、各フェーズごとに顧客の成功体験を定義した上でカスタマーサクセスに取り組みました。

導入期では、「自分にマッチするバッグをレンタルすること」を顧客の成功体験と定義し、大きく2つの施策を実施しています。一つ目は、「同じ料金ならより高価なバッグをレンタルしたい」という顧客心理を抑制するために、バッグの価格掲載を提示せずにデザインだけでバッグを選べるようにしました。二つ目は、全てのバッグにコーディネート案を提示することで、自分好みのコーディネートに合ったバッグを選びやすくするとともに、イメージと実物とのギャップ解消を図っています。

定着期では、「新しいバッグへの交換に要する期間も手元にバッグがあること」を顧客の成功体験と定義した上で、次のような施策に取り組みました。一つ目は通常価格の2倍の料金で1ヶ月に2個のバッグがレンタルできるダブルプランの提供、二つ目はダブルプランを3ヶ月間半額で利用できるキャンペーン期間の導入です。

成熟期では、「自身が所有しているバッグをレンタルして利益を得ること」「レンタルしたバッグを購入して自分のものにすること」を顧客の成功体験と定義した上で2種類の施策に取り組みました。一つ目は普段は使っていないバッグをラクサスが預かりレンタル商品として他の顧客に提供することで、バッグを貸し出した顧客に収入が入る仕組みを構築するというもの、二つ目はレンタルして気に入ったバッグを購入できるようにするというものです。

このような施策を講じた結果、ラクサスは95%という非常に高い平均継続率を実現しました。顧客を3つのフェースに分けて、各フェーズごとの成功体験を定義した上で、それぞれ異なる施策を実施したのがラクサス・テクノロジー株式会社の成功要因と言えるでしょう。

3.Slack Technologies社

三つ目の成功事例はアメリカに本社を構えるSlack Technologies社です。Slack Technologies社はビジネスチャットツールの「Slack」を提供している企業で、ログイン回数や利用している機能などの指標からユーザーをスコアリングした上で、課題を抱えるユーザーに必要なサポートを実行することを徹底しています。また、ユーザーが集まって成功体験などを共有できるフォーラムを設立する、ユーザーと直接対面して意見や満足度をヒアリングするといった取り組みも行われています。Slackは世界150ヵ国のユーザーを抱えるビジネスチャットツールですが、このような取り組みの結果、日本は世界第二位の市場となりました。

4.SATORI株式会社

四つ目の成功事例はSATORI株式会社です。SATORI株式会社はMAツール「SATORI」を提供している企業で、カスタマーサクセスに取り組むことで一般的に使いこなすのが難しいと言われるMAツールを広く普及させることに成功しています。SATORI株式会社では、まずSATORIを使って顧客に成果を上げてもらうためにカスタマーサクセス部門を設立し、その上で様々な施策を実施しました。例えば、実際に活用している様子を撮影した動画を公開したり、疑問解決だけでなく顧客が希望する内容に沿った使い方を提案するサポートセンターを導入したりしています。また、顧客を活用フェーズに分けた上で、各フェーズごとにセミナーを開催するといった取り組みも行っています。このような取り組みの結果、SATORIは2021年時点で1,000社以上に導入されており、各メディアに取り上げられるツールにまで成長しました。

5.株式会社SmartHR

最後の成功事例は株式会社SmartHRです。こちらはクラウド人事労務ソフトの「SmartHR」を提供している企業で、カスタマーサクセスに取り組んだ結果、顧客満足度96.7%、継続率99.5%という高い数値を実現することに成功しました。具体的な施策内容としては、設定方法や使い方などを動画化して公開する、高精度なチャットサポートの導入、専任担当者に個別に相談できるオンライン運用サポート体制の構築、人事や労務に携わるユーザーが情報交換できるユーザーコミュニティの設立などが挙げられます。また、株式会社SmartHRでは解約に至る顧客の特徴を把握し、サービスをどのように改善していくべきかを詳しく分析することを徹底しています。問題に対して最適なアプローチが取れる体制が整えられたことが、株式会社SmartHRの成功要因と言えるでしょう。

 

カスタマーサクセスで成果を出す基本の3ステップ

カスタマーサクセスを導入した企業の中には、思ったような成果が上がらなかったという企業も少なくありませんが、ここではカスタマーサクセスで成果を出すための基本を3ステップでご紹介していきます。

1.顧客の成功体験を定義する

一つ目のステップは顧客の成功体験を定義することです。カスタマーサクセスを実践する上で最も重要なのは、顧客にとって何が成功なのかをしっかりと把握した上で施策を立案することです。例えば、BtoB型のビジネスにおいては、自社の商品やサービスを利用することで得られた成果や業績が顧客にとっての成功体験となります。BtoC型のビジネスモデルでは、顧客の生活に及ぼした好影響が顧客にとっての成功体験となります。

カスタマーサクセスで成果を上げるためには、顧客の成功体験を正確に定義することが不可欠となりますが、成功体験を定義する上で理解しておきたいのは商品やサービスが直接的にもたらす効果が成功体験とは限らないという点です。例えば、クラウド名刺管理ツールは低コストで名刺を一元管理できるツールではありますが、顧客にとっての成功体験は名刺を綺麗に整理することではありません。クラウド名刺管理ツールを使う顧客にとっての成功体験は、あくまで名刺を一元管理することで営業効率を高め、成約率や売上が向上することです。このように、顧客にとっての真の成功体験を正確に捉えられるのかは、カスタマーサクセスの成否を左右すると言っても過言ではないので慎重に定義していくことが大切です。

また、成功体験の定義が机上の空論にならないようにすることも意識しましょう。顧客の成功体験を定義する際にどれだけ議論を重ねたとしても、実際の顧客に沿わない定義をしてしまっては意味がないため、まずは顧客について深く理解することが求められます。顧客について深く理解するためには、実際のユーザーに近い属性のモニターに商品やサービスを実際に使ってもらい、その様子を観察するユーザビリティテストが有効です。自分たちで顧客になりきって考えるのも効果的ではありますが、顧客になりきるのには限界があります。ユーザビリティテストは第三者に顧客になりきってもらえるため、客観的に顧客についての理解を深めることができます。なお、オフラインでのユーザビリティテストの実施には相当のコストがかかりますが、オンラインでテストを実施すればコストを抑えることも可能なので予算が限られるという場合はオンラインでの実施を検討すると良いでしょう。

 

2.成功に導きやすい顧客を絞る

二つ目のステップは成功に導きやすい顧客を絞ることです。カスタマーサクセスでは、全ての顧客にアプローチしても成果につながりにくく、コストと時間ばかりが浪費される可能性が高まります。カスタマーサクセスは、LTV(顧客生涯価値)を高めて将来的な売上向上を目指す施策で、闇雲にアプローチしていてもROI(投資利益率)が悪化するだけの恐れがあります。そのため、どのような施策を行ってもLTVの向上が期待できない顧客はアプローチから除外し、成功体験を届けられる顧客のみに集中することが大切です。

どの顧客をターゲットとすべきか判断するのが難しいという場合は、STP分析を実施するのがおすすめです。STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)・Targeting(ターゲティング)・Positioning(ポジショニング)の3つの単語の頭文字から名付けられた分析手法で、マーケティングにおける代表的なフレームワークのひとつに位置付けられています。具体的なやり方としては、まず自社の商品やサービスに関する市場を調査した上で市場を細かく分類していきます。分類の軸として使われることが多いのは、性別・年齢・職業などの人口統計的な要因、居住エリアや行動範囲などの地理的要因、価値観・趣味・ライフスタイルなどの心理的要因などです。次に、細分化した市場の中でどこを狙うべきかを決定します。ここがターゲティングの部分になるのですが、市場の規模や成長性を把握するとともに、自社の強みが活かせるか否か、競合他社の状況はどうかといった点も総合的に見ながら狙うべき市場を定めます。STP分析では、最後に狙いを定めた市場における自社の立ち位置を明確にしますが、具体的には自社が競合他社よりも優れている部分を明確にすることが大切です。STP分析を行うと、特定のニーズを持つユーザーにターゲットを定めることが可能となるので、カスタマーサクセスにおけるターゲティングで迷った場合は是非活用してみてください。

3.実践を繰り返す

三つ目のステップは実践を繰り返すことです。顧客の成功体験を定義し、成功を届けられる顧客を絞り込んだら、あとは成功体験を届けるための施策を繰り返し実践していくのみです。具体的な施策内容は提供している商品やサービスの特性によって異なりますが、基本的には顧客をフェーズごとに分類した上で施策を立案していくのが有効でしょう。

例えば、顧客を導入フェーズ・活用フェーズ・拡大フェーズの3つのフェーズに分類し、それぞれのフェーズに合った施策を実践していくのが効果的です。自社商品・サービスを導入したばかりの導入フェーズの顧客に対しては、使い方や設定方法などを説明したチュートリアルを提供するといった施策が考えられます。どのような商品・サービスでも、導入フェーズの顧客には商品やサービスの価値を実感してもらうことが大切です。導入後一定期間経過した活用フェーズの顧客に対しては、丁寧なヒアリングを行って顧客が抱える課題を把握した上で、その課題解決につながる施策を立案します。導入・活用フェーズを経た顧客は、自社に対する信頼や愛着が高まっていることが予想されるため、上位プランへのアップグレード(アップセル)やオプション機能の追加(クロスセル)などを薦めていくと良いでしょう。アップセルやクロスセルが成功すれば、顧客のさらなる成功体験を実現できるとともに、自社の収益向上にもつなげることが可能です。

顧客の分類方法や各フェーズごとの施策はあくまで一例ですが、どのようなケースでも顧客にとっての成功を最優先し、何をすべきかを考えた上で実行することが大切です。

 

カスタマーサクセスを成功させる2つのポイント

カスタマーサクセスに取り組む際は様々なポイントを押さえておくことが重要ですが、ここでは特に重要な2つのポイントを解説していきます。

1.カスタマーサクセスの本質を正しく理解しておくこと

一つ目のポイントはカスタマーサクセスの本質を正しく理解しておくことです。近年、カスタマーサクセスへの注目度が高まりを見せていますが、それに伴ってカスタマーサクセスという言葉だけが一人歩きしているような状態になり、本質を理解していない方も増えています。カスタマーサクセスは、サブスクリプション型のビジネスモデルにおいて解約率を下げるのに有効な概念ではありますが、顧客の解約率を下げることがカスタマーサクセスの本質ではありません。カスタマーサクセスの本質は、顧客に成功体験を届けるという観点を最優先して行動していくことにあります。誤った認識で取り組んでも成果につながる可能性は非常に低いため、まずはカスタマーサクセスとはどのような概念なのかを正確に把握することから始めましょう。世の中にはカスタマーサクセスに関する書籍もありますし、セミナーも数多く開催しているので実践する前に書籍やセミナーなどで深く学んでおくことをおすすめします。

また、カスタマーサクセスは多くの部署を巻き込んで取り組んでいく必要があるので、学んだ内容を社内に広く浸透させることも大切です。その上で、トップダウンで施策を打ち出せる体制を整えておくことが重要となります。カスタマーサクセスは取り組みが成果として現れるまでに最低でも数ヶ月は要しますし、成果が出るまでも投資し続けなければなりません。そのため、強い権限を持つものが上に立ち、責任を持って実行できる体制を整えることがカスタマーサクセス成功につながります。

2.カスタマーサクセスツールの導入

二つ目のポイントはカスタマーサクセスツールの導入です。カスタマーサクセスの実施には多くの業務を伴うため、効率的に業務を進めていくためにはツールの活用が欠かせません。カスタマーサクセスツールには、顧客に成功体験を届けるための施策を効率的に実施するための機能が備わっているので、上手く活用していくことがカスタマーサクセス成功につながります。ただし、自社に合わないツールを選んでしまうと十分な効果は期待できず、導入コストやランニングコストが無駄になってしまうため注意が必要です。カスタマーサクセスツールは、大きくコミュニティ構築タイプ・顧客状況把握タイプ・利用サポートタイプ・問い合わせ対応効率化タイプの4つのタイプに分類され、それぞれ搭載されている機能や特徴が異なります。そのため、カスタマーサクセスツール導入の際は、各タイプの特徴を十分に把握した上で自社に最適なツールを選定することが重要です。

コミュニティ構築タイプ

コミュニティ構築タイプは、顧客同士で情報共有できるコミュニティを提供することに重点を置いたタイプです。顧客コミュニティの構築は、サービスに対する顧客の認知と共感を高める施策として有効で、顧客ロイヤリティ向上につながります。その結果、長期的かつ安定的に顧客を獲得・維持することが可能となります。また、勉強会やセミナーの開催は顧客のサービス利用を促す施策として非常に有効ですが、コミュニティ構築タイプのカスタマーサクセスツールにはイベント告知機能も搭載されているので、勉強会やセミナーの開催をコミュニティ内で告知することも可能です。加えて、勉強会やセミナーの後にコミュニティ内のやり取りを分析することで、イベントの効果を測定することもできます。なお、コミュニティの運営にサービス提供会社が介入しすぎると、お客様サポートの場だと思われてしまう可能性があるので注意が必要です。コミュニティを構築する目的は、あくまで顧客同士の交流を活性化することなので、この点は十分に理解した上で活用していくことが求められます。

顧客状況把握タイプ

顧客状況把握タイプは、顧客の行動データや契約・解約データなど様々なデータを収集・分析することで顧客のサービス利用状況を個々に把握できるタイプです。ヘルススコア管理・NPS・タスク管理・ライフサイクル管理・カスタムアラートといった機能が搭載されているのが特徴で、データをもとにカスタマーサクセスの管理基盤を構築することが可能です。また、顧客へのタイムリーなアプローチが可能になるとともに、データの収集・分析の工数が削減されるので担当者の負担軽減にもつながります。

利用サポートタイプ

利用サポートタイプは、サービスの導入や継続的な利用のハードルを下げることを得意とするタイプです。例えば、プログラミングの知識を有していない場合でもノーコードでユーザーガイドを設置できたり、サービスを利用しているユーザーを特定した上で最適なシナリオを提示したりすることができます。利用サポートタイプのカスタマーサクセスツールを導入すれば、導入時のサポートや問い合わせ対応に要するリソースを大幅に削減できるため、他の施策にリソースを回すことが可能となります。

問い合わせ対応効率化タイプ

問い合わせ対応効率化タイプは、文字通り顧客からの問い合わせ対応を効率化してくれるタイプです。例えば、問い合わせ対応の漏れや二重対応を防ぐためのステータス管理機能、問い合わせ内容に対して最適なスタッフを割り当てる担当者振り分け機能、正確かつスピーディーな回答につながる回答テンプレートといった機能が搭載されています。また、問い合わせ対応効率化タイプを導入すると、問い合わせ窓口を一元化することが可能となるため、Webサイト・メール・電話・SNSなど問い合わせのチャネルを拡大させることが可能です。これにより、顧客とのタッチポイントが増加するとともに、顧客が抱える問い合わせに対する心理的なハードルが下がることも期待できます。

以上が4種類のカスタマーサクセスツールの特徴となりますが、ツールを上手く活用して自動化できる部分は自動化し、限られたリソースを有効活用することがカスタマーサクセスの成功のカギとなります。なお、カスタマーサクセスツールの中には、全工程において活用できるオールインワンなツールもあります。一つのツールでオンボーディングからアップセル・クロスセルまで対応できるので、本格的にカスタマーサクセスに取り組むのであれば、このようなツールの導入を検討すると良いでしょう。

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